クラウドサービス「AWS」による機械学習の理論と実践を学ぶ「COMPASS 5.0サマースクール2023」Aコースの報告

クラウドサービス「AWS」による機械学習の理論と実践を学ぶ「COMPASS 5.0サマースクール2023」Aコースの報告

国立高等専門学校機構が推進する「COMPASS 5.0事業(次世代基盤技術教育のカリキュラム化)」では、AI・数理データサイエンス、サイバーセキュリティ、ロボット、IoT、半導体、蓄電池という6つの分野を、これからの技術の高度化に関する羅針盤(COMPASS)と位置付け、高専教育に組み込むことで、新たな時代の人材育成機関としての高度化を図っています。

今回、COMPASS 5.0事業 6分野のうち4分野で「COMPASS 5.0サマースクール2023」が開催され、各校の学生はそれぞれの分野の基礎や最新知識を学ぶとともに、関係者と交流を深めました。AI・数理データサイエンス分野をAコースとして、8月29日に旭川工業高等専門学校で、サイバーセキュリティ・ロボット・半導体分野をBコースとして、9月7、8日に木更津工業高等専門学校で行われました。

Aコースでは、講義「クラウド入門」に続いて、「クラウドコンピューティングを用いた機械学習演習(AWS DeepRacerを用いた自動運転シミュレーション)」が行われ、対面で17名が参加したほか、オンラインでの参加もありました。

講義(1)「クラウド入門」

Amazon Web Services Japan G.K.
トレーニングサービス本部テクニカルトレーナー
                生出 拓馬 氏

仙台高専出身の生出拓馬氏は、東北大学大学院で博士号を取得後、Amazon Web Services Japan G.K.に入社し、現在は同社のトレーニングサービス本部テクニカルトレーナーとして活動しています。AWSやクラウドについて、それらがどのようなものであり、どのように利活用されているかについてご紹介いただきました。

クラウドサービスによって自社のサービスに資源を集中する環境が整う

クラウドについては、聞いたことがあるけれども、その技術の詳細について理解している方はほとんどいないと思います。私も入社してからクラウドについて学びましたので、今回のサマースクールを通じて、皆さんのほうがはるかに早い段階でクラウドについて学べることになりますね。

ショッピングサイトにせよ動画配信サイトにせよ、顧客情報やコンテンツを格納するサーバーなどのインフラがないとビジネスが始められません。そのため、サイトを構築するアプリケーションエンジニアのほかに、サーバーを管理するインフラエンジニアが必要です。サービスは24時間365日行われるわけですから、インフラエンジニアは常時、サーバーが正しく動いているのかを監視し、異常を検知した場合には修復作業を行うなど、非常に手間がかかって大変だったわけです。

このような課題に対するソリューションのひとつが、AWSを含むクラウドサービスです。サーバーの設定や維持管理など、すべてを自動的に行い、いつでもクラウドサービスだけサービスを利用できるのがAWSの特徴です。企業は、ショッピングサイトや動画配信サイトの構築など、自社のビジネスに集中し、インフラの管理はクラウドサービスに任せることができるようになりました。電力を利用する際に自家発電をしたりしないですよね。各企業は電力会社に電力を提供してもらい、使用分に応じて料金を支払うのと同様の仕組みです。

約200種類ものAWSサービスにはAIや機械学習のサービスも含まれる

今お話ししたサーバーのサービスは実はクラウドサービスの一例に過ぎません。AWSは約200種類のサービスを提供しています。さまざまな業界や企業がAWSを活用している例を挙げると、例えば地元北海道のテレビ局のホームページは「Amazon CloudFront」というサービスを使用し、サーバーの負担を軽減できる配信ネットワーク技術を導入しています。また、北海道の市町村ではワクチン接種状況を把握するために、北海道の大学では入試情報サイトの構築にAWSを活用しています。このように身近な企業が、AWS を活用して迅速にシステムを構築しているのです。

AWSはAI、ML(機械学習)、フレームワーク/インフラの各カテゴリーで活躍しています。AIのサービスについて直観的にわかりやすいものを紹介しますと、画像や動画を認識する「Amazon Rekognition」や、自然な音声でテキストを読み上げる「Amazon Polly」、音声データをテキストに変換する「Amazon Transcribe」、機械翻訳の「Amazon Translate」、オリジナルの検索エンジンを作成できる「Amazon Kendra」などがあります。例えばニュースの読み上げには「Amazon Polly」が使用されていますし、大企業は「Amazon Kendra」を活用して膨大な資料をサーバーに格納し、情報を検索して取り出すといった利用があります。これらのサービスは個人利用よりも大企業や組織での利用が一般的です。

また、MLサービスでは、自分たちで機械学習サービスを作成するための基盤である「Amazon SageMaker」が提供されています。AWSはさまざまな業界やカテゴリーで、知らず知らずのうちに活用されていることを感じていただけたかと思います。将来社会に出た時や大学に進学する際に、再びクラウドに関する情報に触れる機会があるかもしれません。その際には、ぜひ今回のお話を思い出していただければと思います。

講義(2)クラウドコンピューティングを用いた機械
学習演習(AWS DeepRacerを用いた自動運転シミュレーション)

Amazon Web Services Japan G.K.
パートナーアライアンス統括本部テクニカルイネーブル
メント本部パートナーソリューションアーキテクト
                髙橋 敏行 氏

サマースクールの後半では、AWSが提供する機械学習サービス、AWS DeepRacerを活用しました。AWS DeepRacerは、AWSのクラウド上で動作する3Dレーシングシミュレーターを用いて、強化学習を使った自動運転モデルを構築することができます。このプログラムでは、学生たちは自動運転レースに参加することで、強化学習の基本原理を実践的に学ぶ機会を得ました。

AWS DeepRacerで強化学習の基礎を実践的に 学ぶ

指導を務めた髙橋敏行氏は、Amazon Web Services Japan G.K.のパートナーアライアンス統括本部テクニカルイネーブルメント本部パートナーソリューションアーキテクトです。AWSのチュートリアル動画などでの軽妙な語り口で人気があり、冒頭で「クラウドコンピューティングについての基本は理解できたかと思います。それを各自で具体的に理解していくことが大事で、今回はその第一歩を学びましょう」と参加者に呼びかけ、自動運転シミュレーター「AWS DeepRacer」について解説しました。

AWS DeepRacerは、AWSにおける200種類以上のサービスの中の一つで、自動車レースの3Dシミュレーションを通じて、自動運転の技術基盤である強化学習を学ぶことができます。機械学習の中には「教師あり学習」「教師なし学習」「強化学習」等の種類があります。強化学習は、例えば犬が特定の行動をした際に報酬を与えることで、その行動を強化するという原理に近い考え方だと、髙橋氏は解説しました。今回はPythonを使った報酬関数により、レースカーが正しい経路を学び続ける過程について、AWS DeepRacerを実際に使って学びました。参加者は強化学習を実践的に学ぶハンズオンの演習を熱心に取り組みました。

これからのキャリアに生かす座学と演習

今回のサマースクールでは、クラウドサービスに関するあいまいな知識しか持っていなかった参加者たちが、座学とハンズオンによってその知識を吸収するスピードに驚かされました。生出氏が言ったように、クラウドサービスの実際を高専の早い段階で学べたことは、きっとこれからのキャリアでも生かされることでしょう。

参加した学生のアンケート結果を見ると、「今回新しく学んだこと」として以下のような意見が寄せられました。

・AWSでさまざまなことができること。
・機械学習ってとても時間がかかることを実感した。
・クラウドに対する知識が少なかったが、今回のサマースクールで理解できたと思う。
・AWSの概要を知り、AWS DeepRacerという新しい世界を知ることができた。
・報酬関数について新しく知った。自分の理想のところに点数を高く配分して、良くない場所に点数を低くするのだとわかった。
・クラウドとその意義がわかった。
・AWSのメリット、AWSはどのようなニーズに応えるものなのか、強化学習の立ち位置、強化学習の報酬について。

旭川工業高等専門学校について

旭川高専は、北海道の道北地域ではいち早く文部科学省の教育プログラム認定制度(M-DASH)におけるリテラシーレベル(全学)および応用基礎レベル(電気情報工学科)の認定を受けており、本科低学年から体系的にAI・数理データサイエンス分野の知識を学んでいます。

また、文部科学省「成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」に採択されました。地域におけるAI人材育成のためのリカレント教育およびリスキリングを目的とし、講義や実習などを今秋から開始する予定です。

電気情報工学科の2年生は、クラウドサービスの知識を学びながら、AWSを利用するために 必要なネットワークやセキュリティの知識やOSを操作するコマンドの知識を実習を通して習得しています。

また、今年度10月から3年生と4年生の後期授業において、AWS Academyにおける機械学習の教材を利用した演習を行っています。提供された機械学習に関する課題を解決する中で、機械学習を組み込むためのプログラミングの知識やクラウドサービスに関するネットワークやセキュリティの知識なども実習を通して身につけていくことを目指しています。

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