社会の変化に対応できる、柔軟な心、知識欲を養いたい【後編】

社会の変化に対応できる、柔軟な心、知識欲を養いたい【後編】

対談:TALK TO TALK

【前編】はこち

──高専全体の社会的役割として目指すところは

天内:今、高専は分かれ道だと思います。教育改革が進み、高校には「探究」という科目ができて、高専でやっていたことに近い、もう少し進んだことをやろうとしています。今後高専が何を魅力として発信していくのかが問われています。高専卒の学生は非常に評判が良かったし、活躍している学生が多いこともわかっています。60年前に作られた高専教育システム自体は非常に優れていたと思います。しかし、それが現代の学生に対する教育としてふさわしいかという疑問もあります。

勇:高専は全国平均では卒業生のだいたい6割が就職、4割が進学で、本科1年生への入試倍率は1.7倍くらいです。進学する大学はだいたい工学部で国立系です。学校や学科によってばらつきはありますが、6割の就職のうちの3割弱しか地元の企業に就職しません。

徳山高専
勇秀憲校長

地域密着はどこの高専にとっても難しいことです。一番やりやすいのは、地域の企業と関わりをもつような学科を作ること、あるいはそういう人材を送り込むことですが、結局学科を作っても外に行ってしまいます。地方の大学も同じジレンマだと思います。もっとも大学の場合、入学者は地元ではなく周辺から来ていますが、徳山高専はほとんど周南地域から来ています。

私としては、徳山高専の特色として、やりたいことが明確で、だからこそ入学するというものが欲しいと思っています。本当はこれを勉強したい、学びたいから徳山高専を選んでもらえるようにしたい。本科1年生への入試の倍率は2~3倍と高いのですが、実質的に本校が第1希望になるような魅力あるものにしていかないと、この地で生き残っていけないと思います。

──高専で知識を吸収しようとする気持ちを養うことが重要なんですね

勇:これだけ求人倍率が高くて企業に求められているとしたら、もっと高専が増えてもいいはずですが、高専がない県もあります。

天内:高専は5年もしくは7年ですが、一般科目もあるのでカリキュラムが圧縮され、余裕がなさすぎると感じます。また、自由に高いレベルのことを勉強できる機会を提供できていません。

勇:今はある専門に偏らず、広範な知識が求められています。少なくとも吸収する気持ちを高専にいる間に養ってもらいたいと思っています。「俺はこれしかできない」ではなく、いろんなことを吸収できるように。ディプロマ・ポリシーを示しても、それで人生が決まるわけではない。彼らがどう人生を進んでいくかのひとつの手助けです。

ディプロマ・サプリメントを一部の企業は参考にしてくれていますし、使いますという大学もあります。ただ、22歳で決まったチャートが10年後に使われても困ります。

天内:ディプロマ・ポリシーに沿って幾つかの能力を表現すると、卒業時にある程度の基準は満たしていないといけないので、みんな同じようなレーダーチャートになってしまいます。それでは、変人もイノベーターも作り出せない。

勇:多分どこの高専でもすごい子はいます。伸びる子、とんがる子がもう少し伸びていけるようにしたいですが、どうしても平均化させてしまいます。いろんな意味で遊びがちょっと少ないと感じています。

徳山高専
天内和人副校長

天内:学生たちには多くのことを吸収させたい。そのために、「近未来KOSEN」を開催したり、外に連れていくとか海外に出すとかをしたい。また、欧米でよくあるギャップタームとかギャップイヤーを作って、自由に国内なり国外なりで活動する期間を設けるとか、学内外を問わずグループでプロジェクト学習をする機会を与えるとか。そういうことは徐々に始まりつつあります。

──高専および高専生は今後どのようになりますか

天内:テクノロジーがわかっている高専出身者が経営者になっているケースが増えてきていると思います。ただ、経営者になるには、お金の話を知らないとだめなので、専攻科には経営管理と経営工学を入れました。個人事業主になっている人はけっこういますし、一人で海外へ出てやっている人もいます。

勇:高専生は、中学の成績はみんな良くて、英語も国語もできて、数学もそれなりにできて点数も高い。だから実は文系かもしれない。今は文理融合と言われていますが、英語や国語だけが大好きで高専に来てもなかなかしんどいと思います。ただ、文系の学科を持つ高専も、全国にいくつかあります。また社会の要請もあって複合融合学科は増えてきています。

徳山高専では「全学科共通的な課題解決授業」とか、3 学年共通した授業を行っていきます。そうすると、汎用的能力、社会人スキルのようなチーム力とかリーダーシップとか、「3学年が集まって課題を解決していく力を養っていく」ことができると思います。それらを測るのは難しいですが、成長は見えると思います。あまり可視化しすぎると良くないが、何らかの測定はキャリア実現に向けて必要だと考えています。

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