「輝くミライを養成する場所~何もない。だけどそれが良い~」阿南高専にとってのSTEAM教育のAを定義する

「輝くミライを養成する場所~何もない。だけどそれが良い~」阿南高専にとってのSTEAM教育のAを定義する

阿南高専にとってのSTEAM教育の「A」を定義する

阿南工業高等専門学校(阿南高専、徳島県阿南市)は2023年12月15日に、「阿南高専のSTEAM教育を考える」ワークショップを実施しました。

文部科学省や独立行政法人国立高等専門学校機構は、理工系人材拡充に向けて「STEAM教育」を推進しています。STEAM教育とはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)、Mathematics(数学)の5つを領域とした教育理念です。5つはどれも高専教育の重要な柱ですが、現実社会の問題を創造的に解決する学習を進める上で、A (Arts)の考え方に基づいて、学問領域を広く横断的に推進していく必要があります。また、取り扱う社会的課題によって、STEMを幹にして、Arts /DesignやRobotics、E-STEM(環境)などさまざまな領域を含んだ派生形が存在し、文系・理系の枠を超えた学びとなっています。

STEAM教育の識者であり、現在、石川県加賀市の教育改革推進政務官としてSTEAM教育の広報やカリキュラム構築を行っている寺西隆行さんは、「STEAM教育の定義は一人ひとりに委ねられています」と話しています。

そこで、阿南高専では改めて「阿南高専のSTEAM教育の本質とは何か」「自分で答えを見つける高専教育そのものがSTEAMなのではないか」などを再検討し、それをインナーブランディングにつなげるプロジェクトを立ち上げました。具体的には識者のヒアリング、阿南高専の学生843名(回答218名)と教職員100名(回答16名)、企業(OB・OG)594社(回答企業113社、OB・OG86名)へのアンケート調査を2023年9月~11月に実施しました。その分析結果をもとにワークショップを開き、阿南高専にとってのSTEAM教育の「A」の定義を考えました。

キャッチコピーを作る学生対象のワークショップ

創造技術工学科建設コース4年生のクラス18名を対象に2023年12月15日(金)14:30~16:00に 90分授業として、ワークショップを開催しました。

ファシリテーターを務めた初海淳さんは、大学を卒業後、広告会社で数々のコピーを手掛け、その後クリエイティブ・ディレクター、コピーライターとして独立しました。現在は横浜市のシェアオフィスを拠点としながら、2022年以降は北海道・斜里町の地域プロジェクト・マネージャーとしても活動する「横浜と知床、二拠点で暮らすまちのクリエイティブ・ディレクター」です。

初海さんはコピーライターとは「不特定多数の人の心を動かし体を動かす言葉をつくり、コミュニケーションの課題を解決する人」であり、コピーとは「コミュニケーション上の課題を解決する言葉」と定義します。

次に、学生たちに「阿南駅で電車が止まって困っている人がいる。その時コミュニケーションの課題を解決する言葉は?」と質問しました。「復旧まで時間がかかるみたいです」「バスは動いていますよ」「タクシー乗り場はあっちです」などの言葉は「直接的」です。「こういう時は深呼吸しましょう」などの言葉は「間接的」です。直接的コピーはブレが少なく記号的であるのに対し、間接的コピーは気持ちが入るから深く刺さりやすいと分析し、優れたコピーは「行動をうながす言葉」であると説明しました。

阿南高専のコアバリューは何かについて、学生、教職員、企業からの事前アンケート結果をテキストマイニングすると、学生は「就職率」、OB・OGは「学べる」「専門性」、教職員は「課外活動」「自然環境」、企業は「デザイン思考」「創り出す」などの項目が浮かび上がりました。初海さんは、その結果をもとに「阿南高専のSTEAMとは○○だ」というコピーを考えようと、学生たちに提案しました。

人間の集中力には限界があるので、1時間通しで考えるよりも20分ごとに計3回考えたほうがアイデアがたくさん出るというアドバイスをもとに、ワークショップを開始しました。学生たちは思い思いにコピーを考え、シェアし、その後絞り込みました。

グループごとにA4用紙にコピーを作成し、結果発表をしました。その結果、「新しい自分との出会い」「新しい知識!!輝くエンジニアへ」などのコピーが生まれ、投票の結果「送ろう!田舎でのただただ豊かな学園生活」が選ばれました。

初海さんは「誰に行動を促そうとしたか」というターゲティングの話をした後、「中心・コアをずらすことなく範囲を広げている例」として、ヘルシンキ中央図書館オーディを紹介しました。一般的な図書館の枠組みを超えた施設や設備が備わったオーディは、コミュニケーションの場、Webサイトを活用した情報発信の場、変化の場としても機能しています。最後に、判断を信用している人、ターゲットに近い人、全然関係のない人の3者から意見を聞くことが、よりよいアイデアにつながるとアドバイスしました。

「輝くミライを養成する場所~何もない。だけどそれが良い~」

学生たちが考えたコピーを元に、今後阿南高専の広報活動に使うキャッチコピーとして「輝くミライを養成する場所~何もない。だけどそれが良い~」がまとまりました。

また、アンケート調査から、阿南高専は「就職率」「学べる」「専門知識」を学習するところに魅力があると考えられていることがわかりました。また、企業からは「デザイン思考」「創り出す」といった意見も多くいただいていることから、阿南高専での学習自体が「A」の素養をもったエンジニアを養成していると考えられます。 この調査結果も踏まえ、今回のワークショップで、阿南高専におけるSTEAMの「A」について検討した結果、阿南高専で学ぶことにより,デザイン思考が高いエンジニアを養成していること、阿南高専はAnan Collegeということも含めて、阿南高専におけるSTEAMの「A」はAnanのAと定義できました。

関連する記事

高専機構「理工系人材の早期発掘とダイバーシティ型STEAM教育強化」報告会開催

高専機構「理工系人材の早期発掘とダイバーシティ型STEAM教育強化」報告会開催

イノベーションの未来を拓く徳山高専の教育を考える~徳山高専型STEAM教育とは何か

イノベーションの未来を拓く徳山高専の教育を考える~徳山高専型STEAM教育とは何か

専攻科から大学院進学でAIスペシャリストを目指す

専攻科から大学院進学でAIスペシャリストを目指す

全国高専K-DASHサマーシンポジウム2023~「ものづくり×AI×課題解決」で取り組むスタートアップ人材育成~【後編】

全国高専K-DASHサマーシンポジウム2023~「ものづくり×AI×課題解決」で取り組むスタートアップ人材育成~【後編】

No Comment

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA