
「NEW EDUCATION EXPO 2023」高専機構セミナー 小・中・高で理系好きを増やす高専のカガク~地域とのコラボでワクワクを広げる~【前編】実験的な出前授業でカガク好きを増やす
教育関係者向けのセミナー&展示会「NEW EDUCATION EXPO 2023」において、6月3日、高専機構セミナー「小・中・高で理系好きを増やす高専のカガク〜地域とのコラボでワクワクを広げる〜」が開催されました。「高専のカガク」とは、サイエンスやケミカルに限定されず、情報、ものづくり、STEAM教育など、これからの教育に必要な学びの総称として利用しています。高専では、この「カガク」好きを増やすための取り組みとして公開講座や各種学校への出前授業を実施しています。
出前授業のデモンストレーションや高専と中学校の連携事例を紹介し、カガク好きを増やすコツを探るとともに、高専の独自性と魅力を伝えます。
科学コミュニケーターによる対話
最初にファシリテーターの本田隆行さんから、今回のセミナーの意義、高専の特色などが紹介されました。
科学コミュニケーター 本田 隆行 さん
科学コミュニケーター、サイエンスライター 堀川 晃菜 さん

本田さんは、科学コミュニケーターの役割には、「専門的な科学の世界と、専門外の世界をつなげること、科学と社会をつなげること、『理系』『文系』をつなげること、『科学・技術が相手に伝わるやりとり』とは何かを考え、実践すること」があると言います。
昨今、理系や文系という既存の枠を飛び越えて、いろいろな学問分野をつなげながら学びを深めていくことが、注目を集めています。本田さんは今回のセミナーの意義について、「高専という教育機関の独自性を生かした出前授業を体験してもらうことで、高専と高専の外をどうやってつなぐと面白いかを考えるきっかけにしたい。あわよくば、自分のところでも実施したいと思ってもらえるような話をお伝えしたい」と説明しました。
同じく科学コミュニケーターで、長岡高専出身の堀川さんは、主に執筆分野で活躍しています。高専生活は充実したもので、特に実験レポートに取り組むことで、サイエンスライターとしての基礎が鍛えられたと言います。
最近は、記者として現役の高専生や卒業生を取材する機会も多い堀川さん。高専の特色として次の点を強調して挙げています。①15歳から「生徒」ではなく自立した「学生」として扱われること、②地域の産業や特色を反映した、高専ならではの実践的な教育が行われていること、③教員は研究者としての顔を持つ一方、学生にとっては親しみやすい先生が多いこと、④世代が離れていても、他校の出身者でも高専卒と知れば距離が縮まる「高専ネットワーク」がある、という点です。
実験的な出前授業
続いて、高専の先生と学生が出前授業のデモを行います。導電性プラスチック、AI、酵素などの幅広い内容で、参加者は実際に手を動かして実験するだけでなく、専門的な解説にも熱心に耳を傾けていました。
①「電気がとおるプラスチック?〜ノーベル賞の化学」
津山工業高等専門学校
准教授 廣木 一亮 先生
専攻科生 渡邊 雄太 さん
専攻科生 野村 龍 さん

電気がとおるプラスチック=導電性プラスチックは、白川英樹博士が2000年にノーベル化学賞を受賞した大発見です。今までの常識を変えた「電気がとおるプラスチック」は、タッチパネルや電解コンデンサーなどに使われていて、デバイスの小型化に大きく貢献しています。
導電性プラスチックは意外にも簡単に作れるもので、PETシートに塗り広げた塩化鉄溶液(触媒)と、シャーレに入ったピロール(原料)を反応させて、ポリピロール(導電性プラスチック)を作る実験を予定していました。ただし、今回は消防法の規制でピロールの持ち込みができなかったため、実験の様子は動画で紹介されました。
その代わりに、透明フィルムスピーカーが披露されました。電気をかけると伸び縮みする特殊なフィルムの両面にPEDOTという導電性プラスチックの薄い膜をはったスピーカーです。例えば有機ELディスプレイのテレビに応用すれば、画面全体から音が出てくるようになります。面で音が出るので、難聴の人にとっては聞き取りやすいという利点もあります。
廣木先生は「物事を座って学ぶ時代が終わったんじゃないか。『科学を文化に』とよく言われますが、私はもともと文化だと思っています。科学を絵画や音楽と同じように楽しんでほしい。絵画や音楽を楽しむのに、透視技法だからとか何拍子だからとは言わない。透明フィルムスピーカーを見てびっくりしたように、まず感じるところから始めて、科学を楽しんでほしい」と結びました。
②「AIに触れてみよう」
富山高等専門学校
准教授 石田 文彦 先生
専攻科生 木村 亮一 さん

AIは社会を支える重要なテクノロジーです。高専でもAIリテラシーやAIの社会実装に関する教育を強力に進めています。AIの歴史を振り返ると、1956年に人工知能という言葉が登場し、1950年代後半~60年代に第1次AIブーム、1980年代に第2次AIブーム、2000年代に第3次AIブームとなり、現在は第4次AIブームとも言われていて、創造性を支援するAIが登場しています。
情報系の体験授業はパソコンの環境に依存しますが、今回はスマホで画像生成AIを体験するものです。資料にあるQRコードから画像生成AI「Stable Diffusion」にアクセスして、まずExamples(例)として並んでいる英文のどれか一つを選んで、「Generate image」というボタンを押すと、その英文に近い画像が生成されます。次に生成したい絵の説明文(英語)を自由に入力して、Generate imageボタンをクリックして数秒待てば、AIが説明文の絵を生成してくれます。
Stable Diffusionは、2022年に公開されたディープラーニングのtext-to-imageモデルで、より多くの英単語情報を入れれば、より高度な画像を作ることができます。参加者は思い思いの単語を入力して、あまりにも早く想像以上の結果が出ることに驚いていました。
本イベントの副題にも「地域とのコラボでワクワクを広げる」とあるように今後は地域課題をAIで解決するといった視点を持ちながら、AIをいかに使いこなしていくかが重要になると石田先生は語りました。
③「食と発酵の科学」
小山工業高等専門学校
准教授 高屋 朋彰 先生
専攻科生 上原 凛 さん

身近な食品や発酵食品を用いて、学校や自宅ですぐに取り組める科学実験を紹介しました。味覚や視覚で変化がわかりやすい「食」をテーマに、スーパーや薬局で手に入りやすい安価で(比較的)安全な材料を利用し、数分間で展開できる内容で構成されています。
高屋先生は人文や歴史などの要素を取り入れた理科教育も行っています。例えば「色」をテーマにした理科クイズでは、肖像画を見ただけでは誰だかわからなくても、木からリンゴが落ちる絵で「アイザック・ニュートン」だとわかることや、ニュートンが22歳で万有引力を発見したことや23〜24歳で太陽光を分光するプリズム実験を行っていることを紹介して、君たちもあと数年でこんな発見ができるんだよと語りかけます。また、太陽光を分光して得られる7つの色の帯(スペクトル)は音階を意識したことや、虹の色は日本・イタリアでは7色だが、アメリカ・イギリスでは6色、中国・ドイツでは5色に認識されていることを話しました。
「実験1:チョコって本当に甘いの?」では、ギムネマ茶を口に含んだ前と後で、チョコの味の変化を確認します。これは味蕾(味を感じる器官)の甘みを感じる部分にギムネマ酸が作用して、甘みだけが感じなくなることによるものです。
「実験2:酵素の力を見てみよう!」では、納豆・大豆がそれぞれ入った2本の容器に、オキシドールを入れると、大豆の容器は変化がなく、納豆の容器は気泡が見られます。これは納豆菌の酵素がオキシドール(H2O2)を水(H2O)と酸素(O2)に分解したことによるものです。
さらに「実験3:カメレオン人工イクラ」の実験キットがお土産として配られました。

***
セミナーの前半では、高専の「カガク」好きを増やすための取り組みと、そのために実施している出前授業のデモを紹介しました。
後半では、高専と中学校の連携の実例を担当者が話してくれました。