AI×データサイエンスで加速する高専生(4)AI活用が当たり前となる社会で高まる高専生への期待~「K-SECセキュリティサマースクール2022」AIコースの報告

AI×データサイエンスで加速する高専生(4)
AI活用が当たり前となる社会で高まる高専生への期待
~「K-SECセキュリティサマースクール2022」AIコースの報告

「K-SECセキュリティサマースクール2022」では、全国の国立高専生を対象に、サイバーセキュリティ、AI、IoT、ロボットなどの情報技術に関する知識とスキルの向上を目的に、2日間の集中的な講義や実践的な演習が行われました。その中からAI・数理・データサイエンスに関する講義の内容を紹介します。

社会実装を意識して学ぶ高専生への期待は大きい

国立高専では、「COMPASS5.0」(次世代基盤技術教育のカリキュラム化)プロジェクトを推進しています。Society 5.0時代をリードする人材に必要な知識、技能を取得するために、AI・数理・データサイエンス、サイバーセキュリティ、ロボット、IoT、半導体という分野をこれからの技術の高度化に関する羅針盤(COMPASS)と位置付け、高専教育に組み込むことで新たな時代の人材育成機関としての高度化を図るものです。

その教育事業の一環として、2022年8月25日・26日の2日間佐世保高専で、「K-SEC(ケーセック)セキュリティサマースクール2022」を開催しました。全国の国立高専生を対象に、学生のサイバーセキュリティ、AI、IoT、ロボットなどの情報技術に関する知識とスキルの向上を目的に、集中的に講義や演習を実施しました。

各専門分野の高専教員に加え、民間のスペシャリストの指導のもと、2日間の集中的な講義や実践的な演習を行いました。新型コロナウイルスの影響で、一部を除きオンライン開催なりましたが、内容は実践的かつ効果的なものになりました。

ここでは、8月25日に開催したAI・数理・データサイエンスに関する講義の様子をお届けします。

(1)Sony NNCを活用した誰でもできるニューラルネットワーク演習(岐阜工業高等専門学校建築学科 柴田良一教授の講義内容のサマリー)

岐阜高専建築学科柴田良一教授は、建設系および機械系における幅広いものづくりにおける構造解析や破壊解析、これらの連成解析の分野で研究されていて、解析技術とAI技術を融合することにも取り組んでいます。

ハードもAIも知っている技術者を育成するために、AI技術教育が必要

柴田先生はAI教育に関して、「デジタルという単語を聞かない日がないと言っても過言ではない今、技術者を育成する高専では、DXする社会に向けて全ての高専生にAI技術教育をしたい」と意気込みを語りました。

現場からは「異常判定ができるのであれば、それに合わせて機械を止めるなどの生産に結びつけたい」という要望があります。それに応えるには、ハードの知識も要するIoT技術が必要です。「これから必要とされる技術者は、ハードもソフト(AI)も知っている技術者です。このような技術者を育成するために、AI技術教育が必要なのではないか」と話しました。

ドラッグ&ドロップで簡単にニューラルネットワーク設計が可能な「Sony NNC」

Sony NNC(Sony Neural Network Console)は、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社が提供する「コーディングなしでディープラーニングを用いた高度なAI開発を実現※」できるサービスです(※ https://dl.sony.com/ja/ より)。ディープラーニングとAI技術を使うには、データ解析するための分類モデルの作成とデータの学習が必要ですが、Sony NNCでは、ユーザーの画像や音声、表データから、分類モデルの作成、データの学習や検証、分類モデルの利用まで実践可能です。

Sony NNCはスクリプティング不要のノーコードツールで、システム開発や研究をしたい場合は、Sony NNCのコア部分(実際に情報処理をする部分)では、Sony NNL(Sony Neural Network Libraries)というPythonプログラミングを使って高度で実践的なシステム開発をすることもできます。さらに、SonyのIoT用ボードコンピューター「Spresense」を用いることでIoT連携技術も開発できるということで、「ハードとソフトの融合」活用までできるツールです。

AIを習得するためには、もちろん広範囲の知識が必要になりますが、基本的に必須なものはNeural Networkに関する知識と言ってよいでしょう。実際にどのように動作するのか、実行環境をPC上に構築して、手を動かしてみることが、全体を理解するのに有効的な手段だと思います。

そこで、『はじめての「SonyNNC」改訂版』をテキストに、ハンズオンも行われ、SONY NNCの活用方法の講義から、基本的な使用方法とサンプルプロジェクトを使った実習まで行いました。

学生たちの新しい発想やチャレンジを引き出したい

ものづくりの現場だけでなく、社会にはさまざまな問題や課題があります。これまでは「実験して、理論を導き、シミュレーションをする方法」で問題解決することが主流でした。しかし、「第4の問題解決手法としてのAI」が出現しました。情報・ビッグデータを取り扱えるようになり、問題解決方法のパラダイムシフトが起こっている中で、これからのAIを活用したものづくりや問題解決に必要な「学生たちの新しい発想やチャレンジを教員が引き出す」教育を実践していきたいと思います。

(2)金融ビジネスにおけるAI活用(株式会社日本総合研究所先端技術ラボ部付部長・シニアリサーチャー 由井成和さんへのインタビュー)

日本総合研究所の由井成和さんによるサマースクールでのAIに関する授業では、AI技術の概要や課題の解説と、金融業界でのAI技術の活用について、海外事例や自社事例と盛りだくさんな内容でした。そこで、金融業界とAIの関連について、お話を伺いました。

金融業界とAI・数理・データサイエンス教育の関連

―日本総合研究所(以下、日本総研)と高専のAI教育との関係について教えてください。

由井:日本総研は、SMBCグループ(三井住友フィナンシャルグループ)の総合情報サービス企業として、リサーチ、コンサルティング、ITソリューションという3つの機能を持ち、それぞれ社会や産業に対し創造的な付加価値を提供しています。ITソリューションでは、国内外のお客様へ金融サービスを提供しているSMBCグループの一員として、いわゆる金融アプリケーションや、サーバーやストレージ、ネットワークといった基盤システムの開発保守を担っています。

日本総研というとシンクタンクとかコンサルティングのイメージが強いかもしれませんが、実はITソリューションにも非常に強い会社です。 

あまり知られていないかもしれませんが、例えば、三井住友銀行のATMシステムや三井住友カードのクレジットカードのシステムだけでなく、もしかしたら学生の皆さんも日本総研が担っていることはご存知でないかもしれません。また、私が所属する「先端技術ラボ」では、将来のITサービスへの活用が見込まれる先端技術の調査・研究を行っています。その中には、AI・数理・データサイエンス、セキュリティ技術のテーマもあります。

日本総研による高専での授業は、昨年度のウィンタースクールから人材育成の産学連携として実施しています。金融業界では、膨大なお客様の金融取引情報の処理や、世界経済や景気予測などIT・AI技術が活躍する場面が多くあり、IT人材が不可欠な業界です。そこで、高専生の皆さんに、デジタルのセキュリティ技術はじめ、AI技術や数理・データサイエンスの知識を活かす場として、「金融業界」を知ってもらうために講義を実施することになりました。

高専生に向けて産学連携の講義を行う意義

―実際に現場で活躍されている方による講義では、どのようなメリットがあるとお考えですか。

由井:高専生にとって、自分たちが学んだことが社会でどのように活かされるのかイメージしやすくなり、興味の範囲を広げるきっかけにもなると思います。

今回「金融ビジネスにおけるAI活用」をテーマにしていますが、例えば、「金融」というキーワードでみると、銀行・証券会社・保険会社などの金融ビジネスフィールドだけをみてしまいがちになりますが、高専生にとっては、学業の延長線上で情報技術に関する専門性や実装力を活かして、技術面から金融業界に携わることができます。現代の金融サービスは情報システムを基盤としたサービスであり、情報システムの品質がサービスの品質を決定します。つまり金融業界こそAI技術等の先端技術が活かせるところだと思います。

また日本総研では、専門性を磨き学会発表なども行え、自分の学んだ知識を発揮することができます。自分の研究成果を国内外に多くのお客様を持つSMBCグループの金融サービスに活かしていくのは、とても良い環境だと考えています。ビジネスとリサーチの両面に取り組めるところは、実は社会にはあまりなく、他社様ではあまり見ることのない日本総研、特に先端技術ラボの特徴だと思います。

高専生にとっては、知る機会やきっかけも得にくい観点ですので、お伝えしたいと思いました。

AIの知識が当たり前になる

― AIはもう既に道具だという方も多く、AIはこれからの社会に不可欠なものになっていくと思いますか。

由井:セキュリティやAIは、もう目の前にあって使えて当たり前になってきていると思いますし、今後はよりその傾向が進むでしょう。時代が進み、技術が進化すると、社会から求められる技術者のスキルも変化していきます。この変化に挑戦していくことは重要です。

AIの高度なアルゴリズムなどを研究・開発する人だけでなく、AIをビジネスで活用する人にとってもある程度AIの仕組みを知っておく時代がきています。そういう意味で、AIは「道具」ですが、道具は常に変わっていくので、継継的にしっかり押さえていく必要があると思っています。

―常にリサーチしておく必要があるということですね。

由井:はい、加えて申し上げるとAIに限らず先端技術を対象としたリサーチが必要です。例えば、量子コンピューターやブロックチェーンなど、情報系の新しい技術は、日進月歩で発展しています。金融機関は大規模な自動化が進む装置産業ですので、技術や社会の変化、お客様のニーズに合わせて、サービスをより良いものにしていく必要があります。そのためにも、しっかり技術動向を調査して、可能性のある技術について使えるかどうか検証し、ITソリューションとして提供しているわけですが、その中の一つとしてAIは重要な技術です。

ディープラーニングが今のAIを進化させていますが、それも時代とともに変わっていきます。「ずっとこの技術で、今のAIで」と静止点で考えるのではなく、可能な限り多くの技術について先駆けて調査し提供していくことが、よりよいサービスの提供に欠かせない重要なポイントだと思っています。

日本総研は、SMBCグループの金融サービスを通じて、お客様に付加価値を提供するために、技術をしっかり研究調査して、実際に業務に使えるものか否かを検証して、新たなITソリューションを開発につなげていきます。

社会実装を意識して学ぶ高専生への期待

―高専教育で大切にしている「社会実装」について、日本総研さんでも活かせるのでしょうか。

由井:SMBCグループでは、約2700万口座もの銀行の個人口座や、5200万人以上のクレジットカード会員数があり、国内屈指の金融グループとして多くのお客様にご利用いただいています。高専生の方が将来SMBCグループの一員になられる場合、自身が研究・開発したセキュリティやAI等を活用したサービスをすぐに使える大規模な顧客基盤が揃っていることになります。その意味で、われわれのサービスは、社会実装に近いところで仕事ができていると考えています。

日本総研先端技術ラボでは、技術リサーチの成果を学会などで発表し、個人のアカデミアにおけるプレゼンス向上にもつながる活動をしています。メンバーの中には、世の中の技術コンペティション(例:Kaggle (https://www.kaggle.com/)に参加し、上位成績を収めメダルを獲得しながら、その解法を開示しています。このよう自身の知見を社会へ提供していくことも社会実装の一つではないでしょうか。

高専生は同世代の学生と比べて自立し、しっかりとした考え方を持っている印象があります。15歳の時点で自分の意思で進路を決めて、高専という狭き門へ進学されており、大学生の年代になると、実装力が身についている点などがとても優れていると感じています。

企業が求める人材像としては、先端技術は進化し続け、その本質を見極める必要があるため、他者の情報を鵜吞みにせず一次情報を自ら取りに行って、それをインプットとして来るべき将来を予測し、的確に提案して推進する力を持った人が理想です。なかなかハードルが高くそのようなスーパーマンはいないかもしれませんが、高専生の持っている潜在能力には非常に期待しています。

今回のように企業と連携した授業は、高専の中でも増えてきています。例えばITプロ人材を「副業先生」として招いて、タイムリーで実践的な講座を開いています。企業側も産学連携でITの育成基盤を作ろうという要望も増えてきていて、高専×企業は今後も重要な連携を進めてくることになるでしょう。そして、高専生が、そこで得た知識を自分自身の武器になることに気づいてもらいたいと思っています。

Society5.0を支える AI・数理データサイエンス人材育成を担うK-DASH
https://k-dash.nc-toyama.ac.jp/

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