AI×データサイエンスで加速する高専生(1)「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」への高専の取り組み

AI×データサイエンスで加速する高専生(1)
「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」への高専の取り組み

高専機構のK-DASHプロジェクトでは、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」の国立高専51校での認定に向けて、データサイエンス・AI人材の育成を加速させています。AI戦略のリテラシーレベルに相当する教育プログラムを早くから実施してきた高専教育の優位性を坪田理事に伺いました。

イノベーション人材を生み出す高専教育の優位性

デジタル社会の「読み・書き・そろばん」である「数理・データサイエンス・AI」のリテラシー教育や応用基礎教育をすべての大学・高専で展開する教育改革が始まっています。高専機構では、2020年度から、Society 5.0により実現する未来技術をリードする高専発!「Society 5.0型未来技術人財」育成事業を進めています。(※1)

なかでも、COMPASS 5.0におけるAI・数理データサイエンス分野の人材育成を担うプロジェクト「K-DASH(KOSEN Mathematics, Data science and AI Smart Higher Educational Community)」では、『AI×DSで加速する高専生』『AIとデータでスペシャリストへ加速する高専生』を全国高専で育成すべき人材像として、以下のピラミッド型人材育成を展開しています。

※1 高専機構では、2020年度から、Society 5.0により実現する未来技術をリードする高専発!「Society 5.0型未来技術人財」育成事業を進めている。これはGEAR 5.0(未来技術の社会実装教育の高度化)、COMPASS 5.0(次世代基盤技術教育のカリキュラム化)の2つのプロジェクトから構成されている。
COMPASS 5.0では、AI・数理データサイエンス、サイバーセキュリティ、ロボット、IoT、半導体の5分野を技術の高度化に関する羅針盤(COMPASS)と位置付け、新たな時代の人材育成の高度化を図っている。
AI・数理データサイエンス分野の人材育成を担う「K-DASH(KOSEN Mathematics, Data science and AI Smart Higher Educational Community)」プロジェクトでは、旭川高専・富山高専が拠点校として、到達目標の策定、教材開発、研修・イベントを実施し、全高専へリテラシーレベル、専門レベルの教育パッケージを展開している。
https://k-dash.nc-toyama.ac.jp/
また、各拠点校も以下のようなスローガンのもとに、各校の特徴を深化させる取り組みを行っている。
[旭川高専]…『(AI+DS)×専門知識』で社会課題に挑戦する高専生
[富山高専]… AI・データサイエンスなどの情報科学素養と経営視点を身に付け、活きた専門知識で新たな価値に挑戦できる高専生
実証例としては、旭川高専では農業の課題に対してデータサイエンスの知識を活用し、地域社会の課題解決を、富山高専では企業実務者がセキュリティなどの専門分野とAIに関する講義を実施、アシスティブテクノロジー関連のアイデア創出実習・実装実習を行いトップ人材の育成を目指している。

政府の「AI戦略」に基づき創設された数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度 ―国立高専の状況―(※2)

「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」については、すべての大学・高専生(約50万人/年)が初級レベルの数理・データサイエンス・AIを習得することを目的としています。2022年度までに217校が認定され、国立高専からも42校が認定されました。

国立高専の認定数は、全認定数の19.4%に達します。2023年度までには、全国立高専51校が認定されることを目指しています。

なお、認定された教育プログラムの中から、先導的で独自の工夫・特色を有するものは「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)プラス」とされています。2022年度までに18件が選定され、国立高専からは長岡高専と富山高専が選定されました。

また、一定規模の大学・高専生(年間約25万人)が自らの専門分野への数理・データサイエンス・AIの応用基礎力を習得することを目指す「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(応用基礎レベル)」も設立されました。2022年度までに68件が認定され、国立高専からは5校(苫小牧・旭川・富山・石川・佐世保高専)7件の教育プログラムが認定されました。

※2 国立高専全51校が「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」の認定を目指す~今夏、リテラシーレベルに33校、応用基礎レベルに5校の国立高専が認定。データサイエンス・AI人材の育成に貢献~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000192.000075419.html

高専における「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」への取り組みについて、国立高専機構の坪田知広理事(※3)に伺いました。

※3 2022年6月27日に取材を受けた時の高専機構における役職。2022年7月4日付で名古屋市教育長に就任しております。

AI戦略のリテラシーレベルに相当する教育プログラムを早くから実施

――認定制度についてですが、高専が多くの大学に先駆けて、申請に取り組むことができたのはどうしてですか。

坪田:各高専で既に実施されていたので、改めて何か新しい取り組みをしなくてもいいからです。AI戦略のリテラシーレベルに相当する教育プログラムを、2016年度、2017年度にスタートしていた高専もあります。世の中が高専の教育に追いついてきたと言ってもいいかもしれません。

――K-DASHプロジェクトを進める中で、AI・数理を活用したどのような人材を育成したいとお考えですか。

坪田:高専全体として今まで取り組んできたものを、もっとアップデートして全体のレベルアップを図りたいと考えています。そして、全体を底上げした状態で、あらゆる産業でAI・数理データサイエンスは必須要件なので、卒業生が社会のあらゆる分野で貢献できるようになります。さらにAI業界を引っ張っていくような企業で活躍できる人材、新しい産業を興していくような人材を輩出できればと考えています。

――高専出身者というと技術者のイメージがありますが、それだけではないということですか。

坪田:技術者の必要な要件として、いろいろなスキルやビジネスセンスも含めて、トータルでイノベーションを起こしていくことができる能力が求められます。そうなると、今までの技術だけではなく非常にたくさんのことを複合的に学んでいく必要があります。

イノベーション人材を生み出す高専の優位性

――イノベーション人材を作り出す上で、高専が大学や高校に比べてどんな点が有利だとお考えですか。

坪田:高専は、中学校卒業後の15歳から本科5年の一貫教育によって高度な専門性を持つ人材を育てる高等教育機関です。例えば、東大に行く人も高校時代は受験勉強しかしていない。もっと早く高専のような教育をしていたらもっとイノベーション人材が生まれるのに、15歳の一番伸びるときに受験勉強
だけなのはかわいそうだと思います。

高校から大学の接続がスムーズにならない限りは、高専のシステムのほうがはるかに優位性があります。ボトム層を上げていくことも高専の目的で、情報系の学科に限らずあらゆる学科にもこれからAIに関するプログラムを入れていきます。

学科を問わずトップレベルの人材を生み出していくのは、単体では難しいかもしれないので、51高専全部で連携して、スケールメリットを生かして取り組んでいきたいと思っています。シリコンバレーで活躍できるような人材、単なる技術者じゃなくて、高度なエンジニアを作っていく。起業家としても成功できるような人材を生み出す素地はもうできています。

――高専は地域貢献や社会実装を視野に入れていることが大きな強みですね。

坪田:地域貢献はもともと高専の目的の一つで、地元の中小企業との共同研究などで、学生が実際の企業の問題を解決していくことを昔からやっています。
高専プロコン(※4)やDCON(ディーコン)(※5)では、地域のわかりやすい課題を取り上げる場合もありますが、自分たちで課題を見つけて、社会実装を意識して研究しています。

点字の自動翻訳ソフトでは、八王子の視覚障害者の団体をヒアリングして役立つかどうかを確認して、何度も何度も往復して研ぎ澄まして優勝しています。壊れた電化製品が直すボランティアをやっている鶴岡高専、あるいは海外のミシンを直すプロジェクトをやっている大分高専など、社会の役に立つことを意識して活動しています。今は人口減少や高齢化によって農業をどうしたらいいかとか、インフラが日本中で傷んでいるので、検査を自動化するシステムにも取り組んでいます。地域でホットな課題に対して、期待をかけられていて、携わった高専生の学びは大きいです。

※4 全国高等専門学校プログラミングコンテスト(高専プロコン)は、全国の国立・公立・私立の高専57校の高専生が、プログラミング技術や情報通信技術におけるアイデアと実現力を競い合うコンテスト。

※5 全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON)は、高専生が日頃培った「ものづくりの技術」と「ディープラーニング」を活用した作品によって生み出される「事業性」を企業評価額で競うコンテスト。受賞者から4社が起業している。
【DCON 出場経験があり、AI・数理データサイエンス分野における高専発ベンチャー】
・株式会社IntegrAI(長岡高専)2020年7月起業
アナログメーターを画像認識で読み取って製造現場を改善するシステムでDCON 2019で最優秀賞を受賞。AIと小型カメラを用いた 「インテグライシステム」で、工場のDX、レトロトランスフィットを手掛けている。(https://integrai.jp/)
・株式会社三豊AI開発(香川高専)2020年8月起業
送電線の点検確認作業を自動化する「AI送電線点検システム」でDCON 2019第2位。香川高専とテクノ・サクセス株式会社が共同研究により開発した送電線点検ロボットのデータの解析に最適化されている。(https://mitoyo-ai-dev.com/)
・TAKAO AI株式会社(東京高専)2021年2月起業
自動点字翻訳システム「:::doc(てんどっく)」のプロトタイプで、2019年高専プロコン最優秀賞受賞、ディープラーニングを用いてシステムを改良しDCON 2020で最優秀賞。開発過程で視覚障害者からも評価を受けたことが後押しとなり起業。(https://takao.ai/)
・wavelogy株式会社(佐世保高専)2022年3月起業
音解析技術を用いた森の生態系維持サポートシステムでDCON2022第3位。工場や街中における異常検知や防犯などの既存システムの低コスト化だけでなく、携帯回線等の届かない山中での環境センシングによる外来種の駆除や生態系調査などの新規事業への拡大を目指す。(https://wavelogy.jp/)

――最後に高専教育の優れた点をまとめていただけますか。

坪田:高専では、感受性の強い若い段階から講義に加えて実験・実習・実技、さらにいろいろなコンテストなどによって、創造性と実践性を兼ね備えた技術者(エンジニア)や起業家を育てています。社会のさまざまな課題にチャレンジできる実力を修得するために、モデルコアカリキュラム(MCC)や達成度評価によって教育の質を保証しています。

その結果、本科卒業時には4年制大学と同程度以上の専門的な知識・技術の習得を達成しています。また、海外でのインターンシップ等の体験的な学習により国際的に通用する実践力を獲得し、チャレンジ精神旺盛で創造力と実践力のある技術者が育っています。

あらゆる産業でAI・数理データは必須となる時代にあって、高専は社会を変えていくエンジンになれると思っています。起業も含めてイノベートする人材を育成するのが高専だということをもっと多くの方に知っていただきたいと願っています。


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